今回は、獅子文六・作「コーヒーと恋愛」を読んだ感想です。
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「コーヒーと恋愛」とは
この小説はなんと,50年前に書かれたもの。
昭和を代表する作家,獅子文六の小説は,ユーモアに富んでいる。
軽快なリズムで刻む文章は,本嫌いな人でも気軽に読めるのではないか。
本書「コーヒーと恋愛」は,もとは「可否道」という題名で,約50年前に読売新聞で掲載されていたそうだ。
舞台は昭和30年代。
なのに古くささを感じさせない物語。
現代人が読んでも共感できる「主人公・モエ子」の心の叫び。
コーヒーを縁に広がるドタバタな人間模様。
ぜひ,コーヒーとともに味わってほしい1冊だ。
(※以下,ネタバレあります)
「コーヒーと恋愛」のあらすじ
主人公は,坂井モエ子(43歳)。
モエ子は,お茶の間から圧倒的な支持を持つ人気女優。
そんなモエ子は,コーヒーを淹れるのがうまい。
コーヒー愛好家のなかでも,一目置かれる存在である。
そんなモエ子には,塔ノ本勉(ベンちゃん)という夫がいる。
ベンちゃんは演劇に情熱を注ぎ,モエ子はそんなベンちゃんを応援していた。
しかしある時。
ベンちゃんを若手女優に奪われてしまう。
涙を流し,悲しみに暮れるモエ子。
モエ子はコーヒー愛好家の菅という男に相談するが…。
すべてはコーヒーを中心に回っている。
モエ子も,ベンちゃんも,それを取り巻く人々も。
はたして中年女性であるモエ子の恋愛はどうなってしまうのか…。
※以下,ネタバレ含みます。
モエ子の爆発
この小説の結末は,モエ子の爆発で締められる。
若手女優のもとへ去っていったベンちゃんが,「もう一度やり直してほしい」と,ぬけぬけとモエ子に言ったことが起爆剤となった。
「お黙り!イヤシンボ!」
昭和を感じさせる激怒で,モエ子はベンちゃんを子供を叱るように怒る。
なぜモエ子はやり直さなかったのか。
それはベンちゃんが,モエ子とやり直したいというよりも,モエ子が淹れたコーヒーに惚れていただけだったから。
モエ子自身を愛しているわけではないことに気づき,憤りを感じ,爆発に至った。
僕は小説を読む中で,男ってホントばか…って思った。
自分の都合だけで女性を振り回し,泣かせたのにかかわらず,よりを戻したいとしゃあしゃあと言ってしまう。
読んでいてモエ子を取り巻く男たちに嫌気がさしたが,最後の最後でモエ子が爆発してくれた。
そのおかげで読後感はスッキリ爽快(笑)。
「気分がイイとはこのことか」と思うくらい,すがすがしくなった。
まちがいなく,本作の見どころは,結末にみせるモエ子の爆発だろう。
恋愛の心得
モエ子は自分が愛されているわけではないと気づく。
自分ではなく,自分の淹れたコーヒーを求めて男どもが寄ってくる。
結局は,男の都合でモエ子は利用されようとしていたに過ぎない。
自分の愛する人を,自信を持って心の底から「愛している」と言えますか?
この小説は僕にそう問いかけているような気がした。
僕には彼女がいるが,けして僕の都合のいい彼女ではない…と思っている。
なぜなら彼女がそばにいない時でも,彼女のことを想っているから。
僕の心の中の,いわゆる精神的な存在として彼女はいる。
そばにいなくとも心でつながっている,それが愛ではなかろうか。
と,クサいこと言ってみたりして。
ともかく。
打算的な考えがある限り,恋愛は成就しないのかもしれない。
おわりに
今まで読んだ小説の中でも,上位に入るほどの読みやすさだと思いました。
そして,獅子文六のファンになりました。
作中に自分を登場させるなど,遊び心がおもしろい。
巻末にある付録「可否道を終えて」もおもしろいんです。
どんな心境でこの物語を書いていたのか,自虐的な解説がおもしろい。
獅子文六の人柄が垣間見れるので,ぜひ最後の付録まで読むことをおススメします。
コーヒーが縁で広がる人間模様を,あなたも堪能してみてください。
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