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もくじ
人はなぜキスをするのか。
それは,互いの微生物を試食するためだそうだ。
つまり,相手の遺伝子や免疫型の味見をするようなもの。
なるほど…。
キスを通して,その人が信頼できるかどうかを品定めしている,というわけですか。
ちょっとプレッシャーだな…。
「あなたの体は9割が細菌」の要約
本書は,生物学者のアランナ・コリン(女性)が人間と細菌のきってもきれない関係について,数多くの事例を踏まえながら,わかりやすく解説している。
生活習慣の「欧米化」や医療の「進歩」が,体内に住んでいる細菌の生態系を狂わせているという事実。
筆者はこの事実に警鐘を鳴らし,細菌類の組成比が崩れることによる弊害を科学的な知見と照らし合わせながら,独自の視点で問題視している。
現代病と呼ばれる肥満,アレルギー,花粉症,うつ病などは,体内の細菌が影響で起こる可能性がある。この現代病がまかり通る21世紀は,「ふつうでない」と気づくべきだと筆者は論述している。
世界19か国で読まれており,日本でも2017年3月時点で第5刷が発行されるほど,ベストセラーとなっている。
本書の中身
予防接種ができた立役者は,じつは子どもだった!?
今では当たり前になった予防接種。
じつはこの予防接種が生まれたのは,ある少年の功績が大きいのではないかと僕は思っている。
そう…。1796年,ジェイムズ君(8才)は実験台にされた…。
天然痘を予防するための実験として,エドワード・ジェンナーは下記の仮説を立てた。
「前もって病原体を体内に取り込ませることで,天然痘に対する抵抗力がつくのでは?」
ジェンナーは,この仮説をもとに実験を行うことにした。
そして,ジェンナー家の庭師の息子であるジェイムズ君を実験台にすることにした。
ジェイムズ君に牛痘の膿(うみ)を接種させたのち,本物の天然痘患者の膿を接種させた。
実験の結果,ジェイムズ君は天然痘を発症しなかった。
つまり,前もって病原体を体に取り込ませておけば,その病原体が原因でなる病気に対して抵抗力がつくかもしれないと結論づけることができる。
僕の抱いた感想はただひとつ。
「ジェイムズ君,かわいそう…」
実験台にされ,天然痘になるかもしれないバクチをさせられたジェイムズ君。
幸いにも発症しなかったのでよかったが,一歩間違えれば…である。
ジェイムズ君のがんばり(?)でできた予防接種。
僕は大いにジェイムズ君を称えたい。
病院の衛生習慣を提唱したハンガリー人医師の末路
病院の衛生管理の礎を気付いたハンガリー人医師がいる。
その名はイグナーツ・ゼンメルヴァイス。
現代では当たり前となっている病院内での衛生習慣。
しかし,昔は不衛生極まりなかったそうだ。
その改革に一役買ったゼンメルヴァイスの末路がいたたまれない…。
ときは1840年代。
病院で出産した女性の32%が死に至っていた。
ゼンメルヴァイスがその原因を探ったところ,産褥(さんじょく)熱によるものと判明した。
産褥(さんじょく)熱とは,「出産時にできた産道や子宮内の傷に細菌が感染して発熱がおきる感染症」のこと。
病院で出産した女性は産褥熱にかかり,死亡したのだ。
ではなぜ細菌が感染したのか。
ゼンメルヴァイスは原因を見つけ出した。
産褥熱を引き起こす細菌を病院内に持ち込んだのは,なんと医師だった。
どうやら医師が検死解剖でついた細菌を持ち込んでいたらしい。
ゼンメルヴァイスは,感染症を予防するため,医師にさらし粉と呼ばれる塩素石灰で手を洗わせた。
その結果,死亡率が低下したそうだ。
これらの結果から,ゼンメルヴァイスは病院内の衛生管理を徹底するように求めた。
しかし当時の風潮から,ゼンメルヴァイスの主張は時代に逆らうものと捉えられ,認められることはなかった。
ゼンメルヴァイスは精神を病み,医師を罵倒したり落ち込んだりした。
あるとき,同僚がゼンメルヴァイスを呼び出し,ヒマシ油を無理やり飲ませようとした。
しかしゼンメルヴァイスは抵抗し暴れたが,守衛たちにボコボコに殴られてしまった。
結局,ゼンメルヴァイスはそのとき受けた傷がおそらく原因で熱病にかかり,死んでしまった。
僕は,時代の風潮って本当に厄介だなと思った。
ゼンメルヴァイスの主張は正しいものなのに,それを認めようとしない医師たち。
いつの時代でも現状に居座ったり,変化を嫌う人がいるんだなと思った。
のちにゼンメルヴァイスの主張は,20年後,フランスのルイ・パスツールにより証明された。
もちろんこのとき,すでにゼンメルヴァイスは死亡している。
ハンガリー人医師の悲しき末路は,「パスツールの細菌説」によって報われたのではないだろうか。
現代の病院は衛生管理が徹底されている。
この当たり前の現状を作ってくれたゼンメルヴァイス。
僕は彼に心からの敬意を表したい。
本書では,ここで挙げた話以外にも,「細菌を追い求め続けてきた人間の感動的で魅力的なストーリー」がたくさん取り上げられている。
科学的知見だけでなく,研究者や患者のストーリーに目を向けてみると,すごくおもしろいと思う。
本書のなるほど豆知識
腸内細菌は,デリケートな存在
「ふとしたことがきっかけで,腸内細菌の組成比が変わってしまう」
2000年,カナダのウォーカートンでO157(病原性大腸菌)が発生した。
それに伴い,腹痛や下痢を訴える人が多かったそうだ。
さらに,O157が終息しても,腹痛や下痢が続いた人が多くいたらしい。
普通であれば,感染症が終息すると症状もやわらぐはずである。
しかし,ウォーカートンの人々は,O157が終息しても腹痛や下痢が治らなかった。
それはなぜかというと…。
最初のO157が引き金となり,腸内細菌の組成比変わってしまったからだそうだ。
つまり,腸内細菌のバランスが崩れ,正常だった腸が異常に転じてしまったという。
ふとしたことがきっかけで,簡単にバランスが崩れる腸内細菌。
例えば,不健康なダイエットや,旅先での食事が原因で下痢になることも多い。
僕も実家に帰省した時,必ず下痢になる。
それは普段食べ慣れていない母の料理を食べたのが原因。
母の料理はうまいから余計にたくさん食べてしまう。
その結果,下痢ラ豪雨に見舞われる。
とにもかくにも。
腸内細菌は非常にデリケートなのだ。
渡り鳥から見る,ダイエットのカロリー神話の崩壊
ニシムクイという渡り鳥がいる。
この鳥は長い旅路に飛び立つ前に,体に栄養を蓄える。
その蓄える量,すなわち「太り方」が尋常じゃないらしい。
ニシムクイは約2週間で体重17gから37gほどに太る。
人間で換算すると,体重63㎏の人が毎日6.5㎏ずつ太って,最終的に140㎏ほどになるようなものらしい。
常識では考えられないニシムクイの太り方。
従来の体重増加メカニズムは,摂取カロリーと消費カロリーの収支の差である「カロリー説」が定説とされてきた。
しかし,ニシムクイは「カロリー説」で説明できる太り方ではない。
ダイエットでは,カロリーを気にすることが多い。
しかし,「カロリー説」が絶対ではないことが,ニシムクイの太り方でわかる。
腸内細菌の組成比が,食べ物からエネルギーをどれだけ引き出すかを決める。
つまり,食べたものすべてのカロリーが体に取り込まれているわけではない。
摂取カロリーはどれだけ食べるかよりも,腸がどれだけ吸収するかで決まるのだそうだ。
ダイエットは,カロリーだけの単純な話ではない。
あらゆる側面が関わりあって,複雑にしている。
だからこそ,世の中には様々なダイエット法が氾濫しているのではないだろうか。
性格は,変えられる。
腸内細菌が,性格を決めているかもしれないという衝撃的な事実。
マウスを使った実験でも,腸内細菌を移植すると性格と行動が変わることが確かめられている。
臆病なマウスに,勇敢なマウスの腸内細菌を移植する。
そうすると,臆病なマウスは勇敢な行動をとるようになったそうだ。
「自分を変えたい」と思っている人にとっては,朗報と捉えるべきだろうか。
性格は腸内細菌によって変えられるという,まぎれもない事実がある。
問題は,いかにして「自分の理想とする性格の人」の腸内細菌を,自分に取り込むか。
理想の人に「腸内細菌ください」なんて言えない…。
人間のワキ毛と陰毛は何のために生えている?
人間のワキの下と陰部は,媚薬を作るための場所なのかもしれないらしい。
とある実験。
女子大生に「男性が来たシャツの匂い」を嗅いでもらい,どの匂いが好きかをたずねる。
そうすると,女性は自分と免疫型が異なる男性の匂いを選んだそうだ。
この結果は,多様な免疫型を子孫に受け継がせるための,いわば本能的な判断らしい。
この人の匂い,なんとなく好き。
この人といると,なんだか落ち着く。
もしかしたらそれは,自分にはない免疫型をもっている証なのかもしれない。
結婚を決める基準として,とても匂いや相性などの「本能的な勘」も大事ということになる。
99,9%殺菌の真実。
テレビCMなどでよく見る「99.9%殺菌」。
僕はこれを見ると,「残りの0.1%は殺菌できないんか!」とツッコんでしまう。
そもそもなぜ,99.9%なのか。
その理由を,本書は教えてくれた。
まず,どのようにして殺菌能力を調べているか。
とある実験現場では,大量の細菌を「液状石けんで満たされた容器」に入れて,手を洗うよりも長い時間放置したときに,どれだけ細菌を死滅できたかを調べるらしい。
なぜ100%と言いきれないのか。
それは,少量のサンプルで「すべての細菌を死滅させることができます!」とは言えないからである。
つまり,実験容器の中だけの細菌を死滅させただけでは,すべての細菌を死滅させたとは言い切れない。
だから100%ではなく,99.9%となる。
仮にも,世の中の細菌をすべて死滅できれば,自信を持って「100%殺菌」をうたうことができる(まずムリな話だが…)。
「99.9%殺菌」の真実。
残りの0.1%は,生き残った細菌の割合ではなく,「科学実験上の限界」である。
僕の本書を読んだ率直な感想
小学生のような感想で申し訳ないが…。
「すごくおもしろかった!」
これに尽きる。
科学的な読み物は難しくて退屈な印象だが,本書は違った。
豊富な「細菌に関する知識」はもちろん。
生活習慣病や心の病などを「腸内細菌の視点」で見るという,新しい発想。
医者や科学者たちのドラマチックな物語。
そして何より,筆者であるアランナ・コリンの情熱が文章を通してこちらに伝わってきた。
僕の仕事と細菌は全く結びつかない。
けれど本書を読んだことにより,日常の景色が変わったのは事実。
目の前に起きる事象に対して,「腸内細菌」というひとつの知識が加わったことで,物の見え方が違ってくる。
科学的な読み物は,単に知識を得るだけのものではない。
自分の中に新たな思考を生み出し,世の中を見る目を変えてくれる。
本書は,うってつけの一冊だ。
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