こんにちは。hiroです。
今回は,桜木紫乃さんの小説「無垢の領域」を読んで思ったことを書きます。
(※以下,ネタバレあり)
男としての僕が、この小説を読んで抱いた感情は、やはり「嫉妬心」だった。
特に秋津の妻である「伶子」と図書館長を務める「林原」との関係の深まりは、僕の心の中で、嫉妬と憎悪が著しく芽生えた。
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あらすじ
書道家である「秋津」は書道の才能あふれる女性「純香」と出会う。
そこで秋津は純香に自分の書道教室の手伝いをさせることに。
その縁で、秋津の妻の「伶子」と純香の兄である「林原」の関係が深まっていく。
純香が渦となり、その周囲の人間の欲と嫉妬があぶり出されるサスペンス。
妻の浮気に嫉妬心が芽生えた
最初、僕は伶子の気持ちがよくわからなかった。
伶子は夫である秋津を「主人は私が必要だし、私も主人が必要」と言っていた。
しかし、その思いを抱きながら、林原と一度きりだが関係を持ってしまう。
伶子自身、いろいろなことがあって、林原に心のよりどころとして求めたかもしれない。
けれど、やはり関係を持つのは、夫としては許しがたい。
夫である秋津にも落ち度はある。
家計と親の介護を妻の伶子に依存しており、いわゆる食わせてもらっている状態。
となると、やはり伶子自身、我慢していた部分があったのかと思う。
溜めていた物をはき出すためには、夫以外の誰かと関係を持つことが必要だったのか。
その欲望を人間は秘めているのだろうか。
確かにこちらとしては、既婚者の女性に心身を預けられたら、男としての欲望が爆発してしまうかもしれない。
けれど、もし自分の妻がそのようなことをしていたら、絶対に怒るし、悲しいはず。
悪いとは思っていても、欲望が強ければ強いほど、抑えるのは難しいのか。
伶子自身も「ダメなこと」とわかっている。
本文中にも、このたった一度の行為の意味を悟り、その後の長い余生のことを考えたのだ。
罪悪感を快楽にすり替えた罰を、伶子は残りの人生で甘んじて受けようとしている。
不倫や浮気はいけないに決まっている。
しかし,そこには当事者の深層心理が関わっており、単純に表面だけで判断できる事象などないのかもしれない。
僕自身も、付き合っていた女性に裏切られた苦い過去がある。
その経験もあって、本書を読んだら、この上ないほど嫉妬心があふれ出てきてしまったのである。
しかし最後に少し救われたと思ったのは、伶子は一度きりに納めたことだった。
そこに伶子という人間の強さを感じた。
もし、今後も関係を持ち、泥沼の展開になっていたらと思うと、嫌気がさしそう。
読み応えのある小説
この小説の面白いところは他にもあった。
純香があっさりと死んでしまうところだったり。
書道家の秋津が受賞した作品が、じつは純香が書いたものだったというところだったり。
才能、欲望、嫉妬。
これらが登場人物の心理描写によって臨場感を持って表現されているところが良かった。
桜木紫乃さんの作品は、人間の暗い部分がよくわかる。
読み手としては、結構読後は落ち込んでしまうのだけれども。
また、それがいい。
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