こんにちは。hiroです。
今回は,小説「イノセントデイズ(早見和真・作)」の感想を書きます。
(※以下,ネタバレあります)
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悪は,いつから始まるのか
この世には、善人と悪人の2種類しかないといわれる。
しかし本当にそうなのだろうか。
悪人は生まれたときから,その残虐性を兼ね備えているのか。
わからない。
小説に出てくる登場人物たちも、悪人、善人がいる。
悪人として登場する人物は最初から悪人だったのか。
登場した悪人の中には、心の内に善人の感情を表す描写がある人物もいる。
その一方で、ただ悪人として登場した人物は、寸分の狂いなく悪人たる行為を堂々と行う人物もいる。
この悪事しか描かれていない悪人は最初から悪人なのか、それとも善の描写がないだけで、善人の心理を持ち合わせているのだろうか。
人間はどちらにも傾きうるということなのか。
わからない。
命は誰のためにあるのか
主人公である田中幸乃の死刑宣告で、それを取り巻く多くの人間の心が揺れ動いていた。
逃げようとする人、悔やみ苦しむ人、助けようとする人、途中で降りる人など、一人の人間の命を巡って、多くの人間が動いた。
それこそ、命は一人だけのものではないということが感じられる。
田中幸乃は死にたいといった。
生かすことは、田中幸乃の願いに反する。
生かすことは、田中幸乃を幸せにはできないのだろうか。
死ぬことが彼女にとっての唯一の救いだったのだろうか。
それは違うと感じる。
なぜなら、友人の佐々木慎一や丹下翔の存在に心を大きく揺さぶられていたから。
この二人の存在が、田中幸乃にとって、人生を大きく変える力があったのではないかと感じる。
この二人は違った形であれ、幸乃を救おうと行動していた。
慎一は最後の最後で、幸乃は罪を犯していないという証拠を手に入れるが、時すでに遅し。
残念ながら、幸乃の死刑は執行されてしまった。
あなたはこの小説を読んで,何を感じるか
読後、なんともいえない気持ちに襲われた。
田中幸乃が救われてほしいという願望と、それが叶わなかった無力感。
それでも平然と回り続ける社会。
こんなに考えさせられて、こんなに胸が苦しくなった小説は、初めてだ。
僕たちは何もわかっていないのかもしれない。
最後の章にも出てくるが、その人のことを何も知らない、何もわかっていない。
不倫だと思っていたカップルが、実はただの親子なのかもしれない。
そういうふうに、僕たちは目の前に映るいかなる真相も、不確かな眺望を見渡すことしかできていない。
不透明で、時には濁った瞳で物事を見ている。
本編にも出てくるが、「相手が何を望んでいるのかを真剣に想像すること」が大切なのかもしれない。
人間というのは複雑な生き物で、思っていることをなかなか口にできないことがある。
相手と真摯に向き合い、何を求めているかを想像することが必要なのかもしれない。
ともかく、こんなに胸に穴を開けさせられた小説は初めてだ。
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